トーナメントではブラインドが段階的に上昇し、スタック量も刻々と変化します。したがってプリフロップのオープンレイズサイズを状況に応じて調整することが欠かせません。今回はスタック深度別の推奨オープンサイズと、その根拠をわかりやすくご説明いたします。
1. 前提となる考え方
指標 | 意味 | レイズサイズに与える影響 |
---|---|---|
SPR (スタック・トゥ・ポット・レシオ) |
フロップ時の残りスタック ÷ ポット | SPRが低いほどポストフロップの意思決定が単純化するためプリフロップサイズを小さくしても問題ありません |
フォールドエクイティ(FE) | レイズにより相手をフォールドさせる確率 | スタックが浅いと相手はコールをためらうので、小さいレイズでも十分FEを獲得できます |
ポジションの価値 | ボタンに近いほど情報量が多い | スタックが深いとポストフロップでスキル差を活かせるため、後ろのポジションでは小さめにオープンして参加範囲を広げる戦略が有効です |
オープンレイズサイズを決める3つの要素
- スタック深度:深いほど大きめのサイズが有効
- テーブルダイナミクス:タイトなテーブルなら小さめ、ルーズなら大きめ
- ポジション:後ろのポジションほど小さめのサイズが効率的
2. スタック深度別オープンレイズの目安
2.2〜2.5BB
ディープ
40BB以上
2.0〜2.3BB
ミドル
25〜40BB
2.0BB前後
ショート寄り
15〜25BB
2.0BB/プッシュ
プッシュ/フォールド
10〜15BB
プッシュのみ
ウルトラショート
10BB未満
有効スタック(BB) | 推奨オープンサイズ | 主な根拠 |
---|---|---|
40BB 以上 (ディープ) |
2.2〜2.5BB | ポストフロップでインプライドオッズを確保しやすく、ナッツポテンシャルのあるハンドを広めにプレイできるからです |
25〜40BB (ミドル) |
2.0〜2.3BB | スタックとブラインドの比率が中間であり、スチール成功時の利益とポストフロップの操作性をバランス良く両立できます |
15〜25BB (ショート寄り) |
2.0BB 前後 (時にミニレイズ) |
フォールドエクイティが高まり、2.0BBでも十分にブラインドを奪えるため、無駄なチップ投入を避ける方が得策です |
10〜15BB (プッシュ/フォールド移行帯) |
2.0BB か オープンシャブに切り替え |
オープン後に3ベットを受けるとコミットしやすいため、レンジの下部はプッシュレンジに移行する方がEVが高くなります |
10BB 未満 (ウルトラショート) |
オープンせず 基本はプッシュのみ |
レイズフォールドするとスタックの20%以上を失う可能性があるため、ICM的にも非効率です |
3. 各深度の詳細な根拠
3.1 ディープスタック(40BB以上)
ディープスタックの特徴
- SPRが高いのでフロップ以降にハンドを育てる余地が大きい
- 2.5BBにするとレイズ成功時のポットが大きくなり、ポジション有利で利益を伸ばしやすい
- ナッツポテンシャルの高いハンド(スーテッドコネクター、小〜中ペアなど)を広く参加させられる
ディープスタックでのポジション別レイズサイズ
- アーリーポジション:2.5BB(タイトなレンジで大きめに)
- ミドルポジション:2.3〜2.5BB
- レイトポジション:2.2〜2.3BB(広いレンジで小さめに)
- ボタン:2.2BB(最も広いレンジで効率的に)
3.2 ミドルスタック(25〜40BB)
ミドルスタックの特徴
- 現代のGTOソルバーでは2.2BB付近が均衡サイズとして頻出します
- ミッドスタックで3BB以上にするとスチール成功時のチップ増加よりもリスクが上回ることが多い
- ポストフロップでまだ十分な操作性があり、インプライドオッズも活かせる
ミドルスタックでの戦略ポイント
この深度では、レイズサイズを2.0〜2.3BBに抑えることで:
- 3ベットを受けた際の損失を最小限に抑えられる
- コールされた場合でもSPRが適度に保たれ、ポストフロップの選択肢が広がる
- スチール成功時の利益とリスクのバランスが最適化される
3.3 ショートスタック(15〜25BB)
ショートスタックの特徴
- ナッシュレンジやICMIZERの解析ではミニレイズが最もEVを確保できるケースが多いです
- フォールドされたときの利益は1.5BB近くになる一方、失うチップは最小限に抑えられます
- ポストフロップでのSPRが低くなり、意思決定が単純化する
ショートスタックでのハンド選択
この深度では、レイズサイズを2.0BB前後に抑えつつ:
- ハイカード・ペア・ブロードウェイ系のハンドを優先する
- スーテッドコネクターなどのスペキュレイティブハンドの価値が下がる
- ポジションの価値が相対的に高まる
3.4 プッシュ/フォールド移行帯(10〜15BB)
プッシュ/フォールド移行帯の特徴
- 2BBレイズすると残りスタックが約8〜13BBになり、リスチールを受けると実質コールせざるを得なくなります
- そのためバリューハンドはプッシュ、それ以外はフォールドに割り切る構成が理論的に優位です
- この深度では「レイズ→コール」と「オールイン」の2択になることが多い
プッシュ/フォールド移行帯での戦略
この深度では、ハンドの強さに応じて2つの戦略を使い分けます:
- 強いハンド(AA, KK, QQ, AK等):2BBレイズで相手を誘い込む
- 中程度のハンド(小〜中ペア、Ax等):直接オールインでフォールドエクイティを最大化
- 弱いハンド:フォールド
3.5 ウルトラショート(10BB未満)
ウルトラショートの特徴
- チップEVだけでなくICMの影響が大きく、1BB失うコストが非常に高くなります
- フラットコールされてもフォールドエクイティが残らず、リスクとリターンが釣り合わないためプッシュに集約されます
- この深度では「プッシュorフォールド」の二択戦略が最も効率的
ウルトラショートでの注意点
10BB未満では、レイズ→フォールドの選択肢を極力避けるべきです:
- 2BBのレイズは全スタックの20%以上を占める
- 3ベットを受けた場合、ほぼ全てのハンドでフォールドせざるを得ない
- ICM的にも、少量のチップを無駄に失うことは非常に不利
4. 実戦で役立つチェックリスト
オープンレイズ前の確認事項
- 自分のスタックをBB換算で把握します
- テーブルの平均スタックや相手のプレイ傾向を確認します
- 推奨サイズを基準にしつつ、相手がルースなら少し大きめ、タイトなら少し小さめに調整します
- ICMがかかる局面(バブル・ペイジャンプ前)は、ショートスタックでのオープン頻度を減らします
- ディフェンス頻度を逆算し、相手BBが過剰にフォールドするならサイズを据え置き、コールが多いならやや大きくします
実戦での調整例
基本サイズ: 25BBのスタックなら2.2BB
調整要素:
- タイトなテーブル → 2.0BBに下げる
- ルーズなテーブル → 2.5BBに上げる
- バブル付近 → より選択的にオープン
- BBがディフェンドしすぎ → サイズを大きく
- BBがタイト過ぎ → 小さいサイズでも十分
5. まとめ
オープンレイズサイズは「スタック量」「フォールドエクイティ」「SPR」など複数の要素が絡み合って決まります。
深いスタックでは2.2〜2.5BB、ミドルでは約2.2BB、ショートではミニレイズまたはプッシュと覚えていただくと実戦で迷いにくくなります。
状況に合わせてサイズを変えることで無駄なチップ損失を抑え、長期的なEV向上につながります。
特に重要なのは、スタックが浅くなるほどレイズサイズを小さくし、最終的にはプッシュ/フォールド戦略に移行するという原則です。
ぜひ本記事を参考に、ご自身のトーナメント戦略に取り入れてください!