トーナメント

ICMがトーナメント(MTT)で重要になるのはいつか?徹底解説!

はじめに:ICMとは?

ICM(インディペンデント・チップ・モデル)とは、トーナメントポーカーにおいてスタックを賞金価値に変換する際に用いられるモデルのことです。
キャッシュゲームでチップが線形的な価値を持つのと異なり、トーナメントではチップの価値が線形ではない(増えても必ずしも同じ比率で賞金が増えるわけではない)ため、ICMという変換モデルが必要になります。

チップEVとICMについて簡単にまとめると下記です。

  • チップEV:チップを増やすことを最優先する考え方
  • ICM:賞金を最大化する考え方(リスクプレミアムや飛ぶリスクなどを考慮)

しかし、MTTでは多数のプレイヤーが残っている中でICMを正確に計算するのが難しく、長らくバブル近辺や終盤でしか使われていませんでした。
この記事ではどの段階からICMを考慮すべきかをまとめたものです。

ICMの基本についてはこちらの記事で詳しく解説していますのでぜひご覧ください!


ICM vs チップEV! いつ切り替えるのがベスト?

トーナメントでは、以下の2つの戦略モデルがしばしば対比されます。

  1. チップEV戦略(Chip EV)
    • いわゆる「キャッシュゲーム的発想」。
    • オールインやコールにおいて、チップ期待値がプラスなら突っ込む
    • トーナメント序盤ではしばしばこれが標準とされることが多い。
  2. ICM戦略
    • チップの増減を「賞金価値」で評価。
    • リスクをとって飛んでしまう(=賞金ゼロ)ことの痛みが、チップEVモデルよりも大きくなる
    • バブル周辺や終盤では「生き残り」重視のためにICMが有利とされる。

一般には「バブル手前からICMを使う」というイメージがありますが、果たして本当にそこからでいいのでしょうか?

さまざまな「ICM切り替えポイント」を比較

戦略プロファイル例

  • ICM100%:最初から最後までICM基準。
  • cEV 25% → ICM 75%:フィールドが25%脱落するまではチップEV、そこからICM。
  • cEV 50% → ICM 50%:半分までチップEV、以降ICM。
  • cEV 75% → ICM 25%:残り25%のプレイヤーになったらICM。
  • cEV 95.5% → ICM(FT):ファイナルテーブルだけICM、など。

こうした様々な「切り替え時期の違うプレイヤー」を同じトーナメントに参加させ、どのグループが最終的にROI(投資収益率)で優位を取るかを比較するという実験があります。

この実験から得られた内容を簡潔にまとめると、以下のようになります。

ICMが及ぼす影響

  1. バブル以外の段階でもICMが有利
    先述の通り、「ICMはバブルや終盤でのみ重要」と考えられがちでしたが、参加者がまだ半分程度残っている時点(バブルよりはるか手前)からICMを意識してプレイするほうが、賞金期待値($EV)が高まる傾向が確認されました。
    • 具体的には、フィールドの残りが約50~40%の頃から、チップEVを優先しすぎるよりもICMに配慮した方がROIが高くなるケースが見られました。
  2. 序盤からチップEVのみで突き進むと、最終的な賞金獲得で不利
    いわゆる「バブル直前まではチップEVでOK」という固定観念に従ってプレイすると、飛ぶリスクが増し、インマネ率が下がるため、総合的な賞金期待値が下がることが示唆されています。
  3. リスクプレミアムの重要性が序盤・中盤でも顕在化
    トーナメントでは、飛びやすいリスクを避けるという価値(ICM上のリスクプレミアム)が、思った以上に早い段階から働き始めます。
    • 具体的には、半数程度のプレイヤーが残っている段階でも、ハンド選択がICMを考慮することでよりタイトになり、バブルや終盤だけとは限らないことが分かっています。
  4. ビッグスタックの優位は早期から活かせる
    ビッグスタックほど他のプレイヤーを圧倒できる状況が早くから作りやすい傾向があります。
    • ショートスタックはICM上のリスクが大きく、ミドルスタックも抜けたプレーをしづらいため、ビッグスタックが積極的なレイズやオールインでプレッシャーをかけやすくなります
  5. ミドルから終盤へかけての移行が理想的
    50%~40%ほどのプレイヤーが残っている時点からICMを意識し始めることで、バブルに突入する頃にはすでにリスク管理を徹底できているので、最終的な賞金獲得額を伸ばしやすいと考えられます。
    • 逆に、ファイナルテーブル近くまでチップEVを維持していると、マージナルスポットでの飛びリスクを甘く見すぎ、ROIを大きく損ねる場合があります。

序盤・中盤で起こる具体的な戦略変更例

  1. BBディフェンスがタイトに
    ICMを考慮すると、BBからオープンに対してコールするときのリスクが大きくなるため、ハンドレンジが狭まります。
    キャッシュゲームやチップEV的にコールしてたハンドでも、ICMではフォールドするケースが増えます。
  2. オープンレイズがやや広がる
    他のプレイヤーがICMで縮こまるなら、レイズしてブラインドをスチールしやすくなります。
    ビッグスタックほどこの傾向が顕著です。
  3. オールイン vs フォールドの二択が増えがち
    相手のコールレンジが狭くなるため、セミブラフ的なオールインが通りやすいです。
    それに対するコール側は、自分のトーナメントライフを守るため慎重になります。

全体的な結論

トーナメントにおけるICMの影響は、バブルや終盤だけでなく、参加者の大部分が残っている段階からすでに明確に存在することが指摘されています。チップEVを最優先するだけでは、飛んでしまうリスクを適切に評価できず、実際の賞金期待値を下げる恐れがあります。
したがって、バブル手前の段階よりも早く、ICM重視の戦略にシフトすることで、結果としてインマネ率や総賞金期待値を高めやすいというのが大きなポイントです。

  • 飛ぶリスクを考慮しながら、マージナルスポットではより慎重になったり、ビッグスタックの立場を活かしてICMプレッシャーをかけるなど、プレイヤーが半分程度残っているミドルステージ頃にはICM目線を導入していくのが有効とされています。

ICMの限界と進化

ここまで紹介してきたICMにも限界があります。

  1. Future Game Simulation(FGS)
    • ICMは現在のスタックだけで順位確率を計算し、今後のブラインド上昇やポジションローテを考慮しません。
    • FGSは次ラウンドの状況をある程度考慮する進化型モデルです。
  2. スキル差無視
    • ICMは「全員同じスキル」と仮定していますが、現実には上手いプレイヤーはエッジを活かせます。
    • ただし大規模実験では、平均的なプレイヤー同士を想定するため、ICMが妥当という考えもあります。
  3. ビッグスタックの優位過小評価
    • 実際にはビッグスタックは、ICMプレッシャーを多用して相手をフォールドさせることができます。

それでも、ICMは高い効率性と実用性を誇り、多くのシナリオで最も広く使われるモデルです。

まとめ:ICMはバブルだけじゃなく、もっと早くから意識するべき!

一連の実験結果から、まとめると:

  1. フィールドの半数が残るあたり(バブルまでの3倍近く前)からICMが統計的に有利になり始める。
  2. 単純に「バブル直前まではチップEV、それ以降ICM」と考えると、多くのROIを失っている可能性大。
  3. ビッグスタックはICMでプレッシャーを活かして攻め、他のプレイヤーは飛ばないように慎重に動く という構図が、バブルより前から顕在化。
  4. 結果的に、ICMを早期から取り入れたプレイヤーが平均的に高い賞金期待値を獲得していた。

ICMの感覚を掴むには、ツールでトレーニングが必須です。もちろん、実戦中に完璧なICM計算は無理ですが、研究やシミュレーションで「この状況ならちょっとタイトにすべき」「ここは攻めていい」といった感覚を養うことが大きなアドバンテージになります。


ICMを学ぶのはバブルや終盤だけでなく、実は中盤から大きな効果があります。トーナメント前半・中盤でも「生き残り」や「リスクプレミアム」を意識することで、飛ぶ確率を下げながら賞金アップを狙えるプレイが可能になります。ぜひ一度、ICM感覚を取り入れた戦略を試してみてください!